お知らせ

2023.07.06

【後記】レスリング・全日本社会人選手権

NCWA(日本障がい者レスリング連盟)所属として「レスリング・全日本社会人選手権」(1日、埼玉・富士見市立市民総合体育館)に、37年ぶりに復帰した谷津嘉章。準々決勝で同じくNCWAの釼持洋祐にテクニカルフォール負けしたものの、健常者の釼持相手に大健闘。NCWA発足を大いにアピールすることとなった。

レスリングの公式戦では、プロ選手として出場した1986年全日本選手権フリースタイル130キロ級で優勝して以来。今年1月の全日本マスターズ選手権でのエキシビションマッチと同様に、義足を外して両膝でマットに立つ姿勢で臨んだ。

東京五輪の聖火ランナー、プロレス復帰に続く快挙をやってのけた谷津だが、その舞台裏に迫ると、様々な成果そして課題が浮上していた。

試合後の谷津はまず「(今回の出場は)障がい者レスリング連盟の啓発もあった。一矢報いて勝ちたかった。これが現実です。それを受け止めて、さらに課題ができたので、健常者から1ポイントでも2ポイントでも取ってやるっていう気持ちがメラメラと沸いてきた」と、ファイターらしく振り返った。

そして各方面に感謝の気持ちを忘れない。「初めて、障がい者でありながら、大会へ挑まさせて頂きました❗️ 本大会出場に当たり、出場を認めて頂きました、日本レスリング協会様並びに社会人連盟様、サポートしていただいた皆様に御礼と感謝申し上げます。また、応援していただいた皆様の期待に応えられたか、どうか。これから反省し、課題をあぶりだし、一つひとつクリアしていきたい」と前向きそのもの。

多くの報道陣が駆けつけ、谷津の一挙手一投足に注目があつまったが「今大会で注目されるのは、少し年齢的に億劫でしたが、今後の障がい者連盟の普及活動の為にも奮起させて頂きました!」と感動の面持ち。

「この大会を通じて、試合前に練習を行って…感じた事は、四つん這いの姿勢で格闘をする意味(負荷)も分かったような気がする」と、実戦の場でこそわかる気づきが多かったようだ。

試合後、記者会見を行う谷津嘉章選手

人間は直立姿勢で活動する。当然、骨格もその様になっている。例えば、四つん這いの状態で、コップでは水は飲みずらい。また長時間での呼吸もしにくく、酸欠状態(息苦しく)に陥ってしまう。

加えて、膝のダメージが大きい、膝サポーターをしていても、効果は薄い。一瞬の衝撃を防ぐためには膝サポーターは有効だが、常に膝を着きながら闘うと、膝の一瞬の衝撃箇所は下部位置とわかったという。

そしてレスリングは、上下左右縦横無尽に膝を着くスポーツ。膝のダメージは、膝上部に集中する。その結果、膝上部の炎症(腫れ)火傷、水疱症、擦れを負ってしまう。

そこで、効果を発揮したのが、今回使用した膝プロテクションである。プロテクションを装着した右膝は、左膝に負った膝上部の炎症(腫れ)火傷、水疱症、擦れなどは生じなかった。

谷津は一つの結論に達したという。プロテクションを装着した右膝はダメージは少なかった。その分、左の膝にダメージが来たのか? それとも、右下腿切断だから左にダメージが来たのか? 両膝に同じプロテクションを装着しなかったからなのか? 定かでは無いが、両膝に装着すれば、より良い結果となったはず。

実戦の場でなければ、浮かび上がってこなかったいくつかの問題点が、はっきりしたことも、今大会に出場したからである。谷津自身にとってだけでなく、後に続く者たちにとっても重要な足跡となった。

下腿切断の結果、予想もしなかった様々な“不具合”が生じことが、今回のチャレンジで判明した。障がい者がレスリングに取り組んだ時、障がい箇所により弊害症状は違うはず。となれば、障がい者一人ひとりによって、対応策が変わってくる。装具もケースバイケースで、一人ひとりに合ったものを開発する必要がある。

実戦に臨んでみないと、どのような対策を取ったら良いのか。なかなか見えてこない。研究し続けるしかない。

谷津の今回のチャレンジはNCWAを世間にアピールし、障がい者レスリングの普及のために大きな実績となったことは間違いない。